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神経変性疾患に関わる新たな相分離制御因子を発見
ーALSの病態解明や治療法開発に希望ー

概要

 近年、筋萎縮性側索硬化症(ALS) では、生物学的相分離(以下、「相分離」という。)※1の制御異常が病態に関わることが示唆されていますが、その相分離制御の仕組みには未解明の点が多く残されています。奈良県立医科大学の森英一朗准教授(未来基礎医学)、杉江和馬教授(脳神経内科学)、徳島大学の齋尾智英教授、東北大学の青木正志教授らの共同研究チームは、転写因子に広く見られるジンクフィンガードメイン(ZnF)※2が、ALS病態に関わる相分離の調節因子として機能することを明らかにしました。今回の研究成果は、ALSをはじめとする神経変性疾患の病態解明、治療法開発につながることが期待されます。本研究成果は、搜狐体育直播app下载7年10月16日(木曜日)18時(日本時間)付で国際科学誌『Nature Communications』に掲載されます。

研究の背景

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動神経が変性し、筋萎縮?筋力低下や構音?嚥下障害が進行する神経難病です。症状の原因となる運動神経の変性過程では、タンパク質が集まってできる凝集体が細胞内に蓄積しています。近年、遺伝性ALSを含む研究の進展により、細胞内で起こる相分離という現象が、ALSの病態に重要な役割を果たすことが示唆されています。

 相分離によって細胞内の分子は自発的に仕切られ、ストレス顆粒などの膜をもたない小器官が形成されます。これらの内部では、数種類のアミノ酸で構成される低複雑性(low-complexity; LC)ドメインをもつRNA結合タンパク質※3が多数の弱い相互作用を組み合わせて集まり、LCドメインポリマーというLCドメイン同士が繰り返し結びついて線維状の多量体の状態となって可逆的に機能します。ところが相分離の制御が破綻すると、可逆的なポリマー状態はアミロイド様に線維化し、不可逆的な凝集体の形成?蓄積につながると考えられています。相分離の制御因子としては、これまで核内輸送受容体※4などの分子が関与することが報告されていますが、未だ不明な点が多く残っており、特にLCドメインに対する認識?制御機構の解明は大きな課題となっています。

 そこで本研究グループは、遺伝性ALSの運動神経モデルや血管内皮細胞の虚血モデルでの遺伝子解析から得られた知見を手掛かりに、転写因子に広く見られるZnFに着目し、ZnFのLCドメイン認識および、形成や性質に与える影響を解析しました。

研究の成果

 本研究では、生化学的、細胞生物学的実験や、物理化学的解析などの幅広い手法を統合的に用いて、ZnFとLCドメインとの関係、ZnFが相分離に及ぼす影響を明らかにしました。ZnFは古くからDNA結合タンパク質として知られてきましたが、これまでRNA結合タンパク質や相分離との直接的な関係は十分に分かっていませんでした。今回の研究では、ZnFの新たな役割として、LCドメインとの結合、特にLCドメインポリマーを選択的に認識して、伸長に抑制的に働く、というモデルが提唱されました。

図1

図1. ZnFによるLCドメインポリマーの選択的結合と伸長抑制モデル
(A)ZnFはRNA結合タンパク質のLCドメインと結合し、特にポリマー状態を選択的に認識して、ポリマー形成に対して抑制的に働く。(B)イメージ図。ALS(左下)では、相分離制御が破綻するとRNA結合タンパク質が凝集体を形成する。ZnFはLCドメインポリマーに結合し抑制的に働くことで、凝集体形成を防ぐ可能性がある(右上)。

 

 今回の研究では、まず遺伝性ALSの運動ニューロンや血管内皮細胞の虚血モデルでの遺伝子解析を行い、それらの細胞モデルではKLF4やZnFを含むタンパク質が関与していることが分かりました。ZnFと相分離との関係性を明らかにするため、ヒドロゲル※5を用いた生化学的評価を行うと、KLF4の各ドメインの中でもZnFのみがLCドメインと結合すること、またDNA結合ドメインの中でもZnFのみがLCドメインと結合することが分かりました。KLF4以外のDNA結合タンパク質のZnFも同様にLCドメインと結合し、またZnFはhnRNPA2やFUS、TDP-43などの様々なLCドメインのヒドロゲルと結合することが明らかになりました。

 

図2

図2. ZnFはLCドメインと相互作用する
(A)FUS変異運動ニューロンと血管内皮細胞の虚血モデルでの変動遺伝子解析。KLF4などのZnFを有する遺伝子が共通して抽出されている。(B)KLF4の各ドメインとLCドメインから作製したヒドロゲルとの結合実験。KLF4の中でZnFのみがヒドロゲルと結合する。(C)KLF4以外のZnFを有するDNA結合タンパク質もヒドロゲルと結合する。(D)ZnFはhnRNPA2やFUS、TDP-43などの様々なRNA結合タンパク質のヒドロゲルと結合する。

 

 次に核磁気共鳴(NMR)装置※6により、ZnFとLCドメインの相互作用部位を詳細に解析しました。まず、安定同位体で標識したZnFのNMRスペクトルを取得しました。ZnFにLCドメインと加えた際のスペクトルを観察すると、異なるRNA結合タンパク質のLCドメインとは、共通して変化するピークが見られました。これにより、ZnFは異なるLCドメインに対しても同様の結合様式を持っていると考えられました。また、ZnFはDNA結合ドメインであり、DNAと強固に結合することが分かっています。そこで、DNAを加えた際のスペクトルを比較したところ、LCドメインを加えた際とは変化するピークが異なることが判明しました。このことから、ZnFはDNA結合とは異なる様式でLCドメインと結合することが判明しました。

図3

図3. NMRによるZnFとLCドメイン/DNAの結合様式の比較
(A)ZnFにLCドメインを加えた際のNMRシグナル強度比の解析。LCドメインに対しては特定の部位が結合に関与している。(B)ZnFの表面モデル。LCドメインとDNAはZnFの異なる部位に結合していることが可視化される。

 

 続いて、相分離でできるRNA結合タンパク質の小さな液滴を使って、ZnFが液滴の性質に与える影響を調べました。まず顕微鏡観察では、ZnFを含まない条件に比べ、ZnFはより多く液滴内に取り込まれる様子が観察されました。次に、液滴の屈折率(RI)を測る方法で中身の濃さを可視化すると、ZnFを加えると液滴内部の屈折率が下がり、より疎になることが分かりました。画像を定量しても同じ傾向が確認されています。さらに、Thioflavin Tという蛍光色素でLCドメインが硬い線維状へ伸びていく過程を追跡すると、ZnFの存在下ではLCドメインのポリマー化が観察されなくなりました。つまり、ZnFはLCドメインポリマーに結合すると同時に、ポリマー化を抑制する働きを示しました。

図4

図4. ZnFがLCの相分離に与える影響
(A)FUSの液滴に、GFP(コントロール)とZnFを加えて観察。ZnFではより多く液滴内に取り込まれている。(B)液滴の屈折率を観察することで、ZnFを加えると内部が疎になることが観察された。(C)Thioflavin Tを用いてLCドメインのポリマー化を観察すると、ZnFを加えることでポリマーへの伸長が抑制されていることが分かる。

 

 さらに、RNA結合タンパク質であるhnRNPA2のLCドメインに、ポリマー化しにくくなる変異を入れた試料を用いて、ZnFとの結合強度を比べました。通常のLCドメインは時間とともにポリマーを形成し、電子顕微鏡でも細い線維状の構造が確認できます。ところが、ポリマー化しにくい変異体では、この線維ができにくく、ゲルろ過クロマトグラフィー※7でも小さな状態のまま検出され、Thioflavin Tを使った測定でも硬い線維へ進むスピードが明らかに遅くなりました。こうしたポリマー化しにくい変異体に対しては、ZnFの結合が弱まることが、ヒドロゲル結合実験やNMRのシグナル変化から分かりました。これらの結果から、ZnFはLCドメインに結合し、特にポリマー化した状態をより特異的に認識し結合していることが判明しました。

図5

図5. ZnFはLCドメインポリマーに選択的に結合する
(A)LCドメインにポリマー化しにくくなる変異を導入し観察。ヒドロゲル結合実験では結合強度が弱まり、電子顕微鏡での観察では、線維化が見られにくくなった。(B)LCドメインの変異体ではゲルろ過クロマトグラフィーでもモノマーの状態で検出され、ポリマー化しにくくなることが観察された。(C)LCドメイン変異体を用いてのNMRスペクトルの解析。変異体ではシグナル変化が小さく、ZnFとの結合が弱いことが分かる。

研究成果の意義

 本研究により、ZnFがLCドメインに結合し、特にポリマー化した状態をより特異的に認識していること、またポリマー化に対して抑制的に働くことが明らかになりました。これまで転写因子のDNA結合ドメインとして知られていたZnFに、相分離制御因子としての新たな可能性を見出した本研究成果から、ALSを始めとする神経変性疾患の病態解明、新たな治療法開発につながることが期待されます。

用語説明

1 生物学的相分離:
 核酸やタンパク質などの生体高分子が、弱い相互作用によって集まる現象。主に液滴を形成してダイナミックに変化する。核小体やRNA顆粒など膜のないオルガネラなどは、細胞内における相分離により形成される。サラダドレッシングの水と油のように、液体中で二相に分かれるのは、身近な相分離の一例である。

2 ジンクフィンガードメイン:
 多くの転写因子に反復して存在し、DNAの特定配列に結合して遺伝子発現を調節するDNA結合ドメイン。亜鉛イオンをシステインやヒスチジンが配位して保持し、安定した立体構造を形成している。

3 RNA結合タンパク質:
 RNAと結合するタンパク質の総称。RNAのスプライシングや安定化、翻訳などにおいて重要な役割を果たしている。アミノ酸が数種類に偏ったLCドメインを持ち、相分離するものが多い。FUSやTDP43などのRNA結合タンパク質のLCドメインに、ALSなどの神経変性疾患を引き起こす遺伝子変異が同定され、相分離異常と神経変性疾患との関連が注目されている。

4 核内輸送受容体:
 細胞質から核内へタンパク質を輸送する分子。核内輸送受容体の一種であるKaryopherinβ2(Kapβ2)は、FUSがもつ核移行シグナル(NLS)を認識して核内に輸送するだけでなく、FUSの相分離制御因子としても機能することが報告されている。

5 ヒドロゲル:
 LCドメインを高濃度に濃縮すると、LCドメイン同士が作用して結合しポリマーを形成して、ゲル状となる。ヒドロゲルはLCドメインがポリマー化した状態のモデルとして用いており、ヒドロゲル結合実験では、ヒドロゲルにタンパク質溶液をふりかけ、ヒドロゲルに結合するかどうかを実験する。今回はZnFがヒドロゲルに結合することを確認し、ZnFがLCドメインポリマーに結合すると考えた。

6 核磁気共鳴(NMR)装置:
 強い磁場の中にサンプルを入れて、核スピンの共鳴現象を観測することで、原子レベルで構造を解析する装置。サンプルを加えた際のシグナル変化を解析し、結合部位の同定や結合強度の比較を行った。

7 ゲル濾過クロマトグラフィー:
 水溶液中に溶解している高分子をサイズ別に分離した後、試料によって散乱した光を検出することで、分子量などを測定する手法。

論文タイトルと著者

【タイトル】Zinc finger domains bind low-complexity domain polymers
【著者】Naohiko Iguchi#, Noriyoshi Isozumi#, Yoshikazu Hattori, Tomohiro Imamura, Takeshi Yokoyama, Masatomo So, Hitoki Nanaura, Takao Kiriyama, Nobuyuki Eura, Minako Yamaoka, Naoki Iwasa, Tomo Shiota, Mari Nakanishi, Nanako Konishi, Haruka Ito, Akihito Takeuchi, Masashi Mori, Shinya Ohki, Hiroyuki Kumeta, Hironori Koga, Mai Watabe, Takuya Mabuchi, Shingo Kanemura, Masaki Okumura, Yoshikazu Tanaka, Ken Morishima, Masaaki Sugiyama, Fumika Ide, Hiroyoshi Matsumura, Takuya Yoshizawa, Ichiro Ota, Naoki Suzuki, Masashi Aoki, Yoshito Yamashiro, Tomohide Saio, Kazuma Sugie*, Eiichiro Mori*
(#:共同筆頭著者) (*:共同責任著者)

【掲載誌】Nature Communications (DOI: 10.1038/s41467-025-64382-2)

研究グループ

 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)、科学技術振興機構(JST)、日本学術振興会(JSPS)などの支援のもとで行われたものです。

奈良県立医科大学
 脳神経内科学
  井口 直彦#、七浦 仁紀、桐山 敬生、江浦 信之、山岡 美奈子、岩佐 直毅
  塩田 智、小西 菜々子、杉江 和馬*
 未来基礎医学
  五十棲 規嘉#、宗 正智、伊藤 晴加、竹内 亮人、森 英一朗*
 V-iCliniX講座
  中西 真理

徳島大学先端酵素学研究所基幹研究部門分子生命科学分野
  服部 良一、齋尾 智英

東北大学
 大学院医学系研究科神経内科学分野
  鈴木 直輝、青木 正志
 大学院生命科学研究科
  横山 武司、田中 良和
 学際科学フロンティア研究所
  渡部 マイ、金村 進吾、奥村 正樹
 流体科学研究所
  馬渕 拓哉

石川県立大学
 生物資源工学研究所
  森 正之
 生物資源環境学部 生産科学科
  今村 智弘、古賀 博則

北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアルテクノロジーセンター
  大木 進野

北海道大学 大学院先端生命科学研究院
  久米田 博之

京都大学 複合原子力科学研究所
  守島 健、杉山 正明

立命館大学 生命科学部 生物工学科 構造生命科学研究室
  井手 郁佳、松村 浩由、吉澤 拓也

近畿大学奈良病院 耳鼻咽喉?頭頸部外科
  太田 一郎

国立循環器病研究センター 先端医療技術開発部
  山城 義人

お問い合わせ先

<研究内容に関すること>
奈良県立医科大学未来基礎医学准教授?森英一朗
 E-mail:emori“AT”naramed-u.ac.jp
奈良県立医科大学脳神経内科学教授?杉江和馬
 E-mail:ksugie“AT”naramed-u.ac.jp
徳島大学先端酵素学研究所基幹研究部門分子生命科学分野教授?齋尾智英
 E-mail:saio“AT”tokushima-u.ac.jp
東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野教授?青木正志
 E-mail:masashi.aoki.c8“AT”tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
奈良県立医科大学 研究推進課
 Tel:0744-22-3051 E-mail:sangaku“AT”naramed-u.ac.jp
徳島大学 先端酵素学研究所 事務室
 Tel:088-633-9420 E-mail:kousojimc“AT”tokushima-u.ac.jp
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室、東北大学病院広報室
 Tel:022-717-8032 E-mail:press.med“AT”grp.tohoku.ac.jp

E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

 

プレスリリース(PDF:1,053KB)

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公立大学法人奈良県立医科大学 法人企画部 研究推進課 産学連携推進係(産学連携推進センター)

奈良県橿原市四条町840番地

電話番号:0744-22-3051 ※番号非通知はつながりません。

ファックス番号:0744-29-8021

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